「華竜の宮(上) (ハヤカワ文庫JA)」読了。
小松左京が「日本沈没」で本当に描きたかったのは、国土を失った日本民族の流浪と苦難だった、という話を読んだことがある。いかに“理論的に”日本を沈めるかを書いているうちにあれができてしまったのだとか。私が読んだ話には続きがあって、これが星新一や筒井康隆だったら“ある日、日本は沈没した。さてそこで――”と始めてしまっただろう、と。実際、筒井康隆の「日本以外全部沈没」など、まさにそのノリである。
さて、この作品。同作者の出世作「魚舟・獣舟」と世界観・設定を共有しているのだが、そこにもっていくまでの40ページほどのテンポが凄まじい。“ある日、世界は沈没した”とまではいわないまでも、あれよあれよといううちに世界が沈んでしまう。そこに無理を感じさせないのは「この先をこそ語りたいのだ」という作者の強い思いによるものではないかと思う。
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